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  • 2015.08.01 Saturday
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ISISアンチセンスapo(a)の効果: 第一相試験成績

Lipoprotein(a)はapolipoprotein(a)がapolipoprotein B-100 (apoB)と共有結合して血中に存在するリポタンパクである(図1)。Lp(a)濃度はLPA遺伝子で規定されており、遺伝子レベルではkringle (K)の長さで規定されている。Lp(a)濃度はKringle IVの数と逆相関があり、疫学的にも動脈硬化性疾患と血中Lp(a)濃度は正相関するとの考えが一般的である。Lp(a)が動脈硬化性疾患や大動脈弁石灰化と狭窄の原因となるか否かは確定的ではないが、その理由の一つは血中Lp(a)濃度を制御する適切な薬物療法がないからである。わずかにLDL-apheresisか一部の薬物が期待されているが、その場合もLp(a)の変化だけではなく、他のリポタンパクも同時に変動するため評価が困難となっている。今回apo(a)のantisense治療を報告する第一相試験がUniversity of California San DiegoからLancet誌上に報告された。
ISIS-APO(a)をplacebo, 50mg, 100mg, 200mg, 300mg皮下投与した結果は用量依存的にLp(a)濃度は低下した(図2)。今後さらに臨床試験が進められと期待されるが、欧米に比べ、日本では高Lp(a)血症の症例が少ないようであり、今後そのことについても検討しなければならない。
それにしても、アンチセンス治療法ではantisense apoB, antisense CETP, antisense apoC3が登場したことになる。モノクローナル抗体(Mab)とともに最も発展しそうな分野である。当然、脂質代謝以外でも注目された治療法となっている。
Tsimikas S, et al, Witztum JL. Antisense therapy targeting apolipoprotein(a): a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 1 study. Lancet. 2015 Jul 22. pii: S0140-6736(15)61252-1.

高トリグリセライド血症(カイロミクロン血症)に対するアンチセンスapoCIIIの効果

高トリグリセライド血症(カイロミクロン血症)に対するアンチセンスapoCIIIの効果
 
高トリグリセライド血症、とくにカイロミクロン血症はリポ蛋白リパーゼ(LPL)欠損症またはLPLの補酵素であるアポCII欠損症が古典的な成因として有名である。近年、LPL活性を阻害するアポCIIIの過剰もカイロミクロン血症の成因として注目を浴びており、治療法としてアポCIII阻害治療が脚光を浴びている。 近年、脂質異常症の治療として、脂質代謝に関する酵素、レセプターなど種々のタンパクに対するモノクローナル抗体(Mab)とアンチセンスが脂質代謝の治療薬として脚光を浴びている。今回、アンチセンスApo(a)とアンチセンスApo CIIIの効果が発表されたので紹介する。先ず、アンチセンスApoCIIIの効果について述べたい。本論文の予稿として、同じ著者らがN Engl J MedにBrief Reportとして執筆されているが、今回、同じ著者で本論文が投稿されている。
なお、共著者のJD BrunzellはシアトルのUniversity of Washingtonの研究者で、カイロミクロン血症研究の第一人者で、「The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th Edのカイロミクロン血症」の著者であるが、今年3月、白血病で急逝したことをKnopp夫人からメールをもらった。我々のグループでは、小林淳二先生、中嶋克行先生がBrunzellと親しかったと思われるが遺稿となってしまった。
今回、高トリグリセライド血症に対するアンチセンスApo C IIIアンチセンス(ISIS 304801)の効果を確認した論文である。
対象は57例の41例は実薬を、16例はプラセボであった。28例はフィブレートとの併用群であり、8例はプラセボであった。
結果は図1に示した。Apo C3と血清TGは用量依存的に減少した。HDL-CはTGとは鏡像的に、用量依存的に上昇した。 
Daniel Gaudet, M.D., Ph.D., et al, John D. Brunzell, M.D., and John J.P. Kastelein, M.D., Ph.D. Antisense Inhibition of Apolipoprotein C-III in Patients with Hypertriglyceridemia. N Engl J Med 2015; 373:438-447

 

FDAはPCSK9抗体(Evolocumab)も承認.脂質異常症治療薬の進歩はすごい

昨今の脂質異常症に対する治療薬の進歩はすごい。
最近では、アムジェン社のPCSK9モノクローナル抗体(Mab)注射薬(Evolocumab, Repatha®)の欧州薬務局での部分承認を紹介したが、7月24日、ライバルのサノフィ社のAlirocumab(商品名Praluent)が米国で薬剤承認を得ている。後者のPraluentは75mgと150mgの2用量があり、2週間毎に患者が自己注射をすることで使用できる。治療対象は家族性高コレステロール血症(FH)およびLDL-Cが高い虚血性心疾患患者とされている。
 

新しいコレステロール転送蛋白阻害剤(CETP-inhibitor) TA-8995に期待しよう

動脈硬化の予防と治療に対するリポ蛋白コレステロールの管理原則は「LDL-Cを下げ、HDL-Cを上げる」ことである。LDL-Cを下げる薬としてスタチンは高い評価を受けており、「高コレステロール血症に対するペニシリン」と評価されてきた。多くの大規模臨床試験でもスタチンの動脈硬化性疾患(Atherosclerotic cardiovascular disease (ASCVD)の一次予防と二次予防が実証されてきた。しかし、スタチン登場以後もASCVDは撲滅されることはなく、残余ASCVDに対する更なる治療が待たれている。LDL-C低下療法にはスタチンとPCSK9阻害剤の長期効果が期待されているが、もう一方、HDL-C増加療法も大きなターゲットとなってきた。
HDL-C増加療法で最も期待される薬剤はコレステロール転送蛋白(Cholesteryl-ester transfer protein (CETP)阻害剤である。この薬剤の開発の動機となったのは我々が発見したCETP欠損症であることは繰り返し述べてきた。CETP欠損症ではHDL-Cが100〜200mg/dlに上昇し、LDL-Cは50〜100mg/dlと低値となることが判っており、CETP阻害剤の開発に拍車がかかった。Torcetrapibとdalcetrapibが当初のCETP阻害剤である。Torcetrapibは想定外の副作用で、またdalcetrapibは期待された効果が不十分で開発が中止された。目下、数種のCETP阻害剤が開発中であるが、このたび、新しいCETP阻害剤(TA-8995)の第2相試験がLancetに発表されたので紹介する。
TA-8995はDezima Pharma(オランダ)とMitsubishi Tanabe Parmaの共同開発である。
この度、Lancetに発表された軽症脂質異常症に対する試験(TULIP)では、オランダ、デンマークで364例を対象に行われ、コンピューターでランダム化した2重盲検比較試験である。群分けはTA-8995投与;1mg, 2.5mg, 5mg, 10mg,プラセボ群である。スタチン併用群では;10mg TA-8995 + アトルバスタチン20mg、10mg TA-8995 + 10mgロスバスタチン または+20mgアトルバスタチン、10mgロスバスタチン単独群である。
結果:下図に示した通りであるが、10mg TA-8995ではLDL-C45.3%減少、10mg TA-8995 + アトルバスタチンではLDL-C68.2%減少した。1mg TA-8995ではHDL-C 75.8%増加、10mg投与では179%増加した。特記すべき副作用はみられなかった。
元来、CETP阻害剤は脂溶性であり、anacetrapibは脂肪組織に蓄積しやすく、投薬中止後、数年にわたって血中に残存することが知られている。しかし、TA-8995は脂肪組織に蓄積性がなく、薬剤中止後は速やかに血中から消失し、サルの実験では投薬中止後9ヶ月で脂肪組織や肝臓には残存していない。
TA-8995の大規模かつ長期の臨床成績が大いに期待される。CETPのモノクローナル抗体やアンチセンスCETPも期待されよう。
ASCVDに対するTA-8995の長期効果が待たれる。
Hovingh GK, Kastelein JJ, t al. Cholesterol ester transfer protein inhibition by TA-8995 in patients with mild dyslipidaemia (TULIP): a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 2 trial. Lancet. 2015 Jun 2. pii: S0140-6736(15)60158-1.

 

Evolocumab(レパタ®)が世界初のPCSK9阻害剤のコレステロール低下剤として欧州薬務局で承認された

LDL-コレステロール(LDL-C)を低下すれば家族性高コレステロール血症(FH)および非FH患者の動脈硬化性心血管系イベント(ASCVD)を抑制できる「コレステロール仮説」が多くの臨床試験により明らかとなっている。スタチンが発売されて四半世紀経過したが、依然としてASCVDが発症しており、その残余心血管イベントの対策が急務となっている。スタチン不耐性または抵抗性の症例にたいしては新たなコレステロール低下剤の登場が期待されていた。
PCSK9阻害剤は全く新しいコレステロール低下剤であり、完全ヒト型PCSK9に対するモノクローナル抗体(mab)が効果的であることが実証され、その臨床成績が多数発表され、本ブログでも紹介してきた。PCSK9mab単独またはスタチンとの併用により劇的なLDL-C低下効果があり、副作用はプラセボ群と同等であったと報告されている。最近ではホモFH症例でも効果が期待されており、その作用機序についてはNature Reviews Endocrinology News & Viewsで解説した。PCSK9mabにはアステラスアムジェン社のevolocumab(商品名Repatha)とサノフィ社のalirocumabがあるが、両剤とも極めて有効な薬剤とされており、両剤とも米国と欧州の薬務局へ申請中であった。Evolocumabが先に承認を受けたが、alirocumabも承認が期待されている。
長期投与における安全性と有効性の評価 (OSLER-1, OSLER-2)は継続される予定であるが、スタチンに続く薬剤と期待されている。
文献
1. アステラスアムジェン社のプレスリリース
2. Sabatine MS et al. Efficacy and safety of evolocumab in reducing lipids and cardiovascular events. N Engl J Med. 2015 Apr 16;372(16):1500-9.
3. Mabuchi H, Nohara A. Therapy: PCSK9 inhibitors for treating familial hypercholesterolaemia. Nat Rev Endocrinol. 2015 Jan;11(1):8-9.
 

第47回 日本動脈硬化学会学術集会記 (2015年)

2015年度第47回日本動脈硬化学会学術集会(JAS)が7月9日、10日の両日、仙台市で開催された。オランダのアムステルダムで開催された国際動脈硬化学会(ISA)から間もなく開催された国内学会の参加であった。学会のトピックはISAほど鮮明なものは見当たらなかった。PCSK9-Mabの臨床成績もわが国では未だ発表されるものは少ないようだし、FHに関する研究成果もそれ程進歩していないようである。
私の関心事は外国から招待された学者の講演であった。招待された研究者のうち、リポタンパク代謝に関係し、面識のある先生はGerald F Watts教授(オーストラリア)、Alberico L. Catapano教授(イタリア)、Jeong Euy Park教授(韓国)であった。外国の学者は招待された学会で、どのような研究者とどんな話をし、新しい情報を得たかを土産話とすることが多いので、これらの旧知の先生方と情報交換することの意義は大きいと言える。
7月8日、あるパーティが開催され、私も出席した。指名されてCatapano教授がスピーチを行ったが、今年からChapmanに代わってヨーロッパ動脈硬化学会の会長に就任していた。スピーチの中で、日本はスタチンの発見と開発、FHの基礎的、臨床的研究、コレステロール転送蛋白(CETP)欠損症の発見は日本のオリジナル業績であると賞賛した。いずれも我々の研究室の業績であり、Catapano教授にご挨拶申し上げたが、よく知っているとのことであった。Dr. Wattsとは挨拶と短い立ち話で終わった。Jeong Euy Park教授は韓国に行った時はいつもご挨拶しているが、今回はEmerging paradigms for the management of familial hypercholesterolemiaというシンポジウムに参加していた。シンポジウム終了後、他のアジアの演者に”Dr. Mabuchi is the father of FH”と紹介していた。
知り合いの研究者が次第に減少する中での学会参加であったが、親しい先生と旧交を温めることも学会の意義と言えそうです。
因に光栄な呼び名を頂いたのは、”Are you Achilles tendon's Mabuchi?"と言われたり、学生から"Mr New England Journal of Medicine" などがあり、さらに努力して良い称号をもらいたいものである。

 

コレステロールは低ければ低いほど良いのはスタチンだけではない(IMPROVE ITより)

永らくブログを休んでいましたが再開します。
スタチン登場により血清総コレステロール(TC)、LDL-コレステロール(LDL-C)は低ければ低い程動脈硬化性心血管系イベント(ASCVD)が低下することが明らかとなり、そのエビデンスに基づいてACC, AHAガイドラインが作成されている。まさにスタチン・ガイドラインともいえるものとなって“statin only”となっている。しかし、強力なスタチンでもなおASCVDは根絶されず,残余ASCVDイベントは発生するため、その対策が待たれている。残余ASCVDの原因はさまざま想定されているが、LDL-Cの低下管理が不十分である例が最も多いと考えられる。エゼチミブは市販薬の中では最も新しいコレステロール低下剤であり,スタチンの補助薬として期待されている。本薬剤は小腸のNiemann-Pick-C1-like 1 (NPC1L1)タンパクをブロックし小腸のコレステロール吸収を特異的に抑制し、LDL-Cを約20%低下させる効果がある。本剤投与により心血管イベントを減らすことができるか否かが久しく注目されていた。今回、エゼチミブ投与により心血管イベントの二次予防が可能か否かを検証する多施設大規模臨床試験(IMPROVE-IT)の結果が発表され、スタチンでなくてもLDL-Cが減少すれば心血管イベントが減少することが実証された。
 いくつかの大規模臨床試験を纏めて評価しIMPROVE-ITとして。症例は18,144例の心筋梗塞患者を2群に分けた。9077例はシンバスタチン単独投与群であり、他方9067例はシンバスタチンとエゼチミブ併用群である。主要血管エンドポイント(primary end point)は心血管死、主要冠動脈イベント、非致死性脳血管ストロークである。
 主要血管イベントは図1のごとくシンバスタチン単独(34.7%)よりシンバスタチンとエゼチミブ併用群(32.7%)でイベントが2.0%少なかった。ハザード比は0.936(95%CI.0.82-0.99)(p=0.016)であった。副作用は2群間で差はなかった。
 本研究と既報のLDL-C低下量と心血管系イベント減少の関係をプロットすると図2のごとくLDL-C減少量と主要血管イベントの減少が明らかに相関していた。
 本論文に対するeditorialも興味ある内容となっている。従来からスタチンによるLDL-C低下と心血管イベント減少は明らかに相関するといわれていたが、今回の成績より,スタチンによらなくても,どのような手段でLDL-Cを下げても心血管系イベントの減少がみられたことから,「スタチン仮説」から「LDL-C仮説」へ移行することを提唱している。従って、スタチンの多面的効果もそれ程重要な役割があるとは思えない。コレステロール低下効果がほとんどすべてでしょう(図3)。われわれがLDL-アフェレーシスでLDL-Cを低下させた場合も薬剤によるLDL-C低下効果と同一線上にあることから(図3)、この治療方法でもLDL-C低下によるASCVD減少は薬剤と同様の機序、「LDL−Cは低ければ低い程よい」ことを実証している(図4)。
文献
1) Cannon CP, et al. Ezetimibe Added to Statin Therapy after Acute Coronary Syndromes. N Engl J Med. 2015 Jun 18;372(25):2387-2397.
2) Jarcho JA, Keaney JF Jr.Proof That Lower Is Better - LDL Cholesterol and IMPROVE-IT. N Engl J Med. 2015 Jun 18;372 (25):2448-2450.






アムステルダムの国際動脈硬化学会でのロビー活動

第17回国際動脈硬化学会(ISA)が2015年5月23日から26日までオランダのアムステルダムで開催されました。ここでは個人的な学会印象記を記録に留めておきたい。
本学会は3年毎に開催され,前回のシドニー以来の開催となる。会長はアムステルダム大学Medical Centerの血管内科の教授Kastelein教授である。FHの遺伝的解明を専門とすることから,私の専門と近く、古くからの知り合いである。ニューヨークで開催されたISAの学会会期中に9.11アメリカ同時多発テロが発生し、忘れられない学会となった。9.11の夜7時から世界貿易センターでパーティが計画されていて,10時間程度の違いで難を免れた学会となった。この学会のレセプションでDr Kasteleinと初めて挨拶し,以来、国際動脈硬化学会では挨拶を交わしている。今回は彼が主催する学会であり,特徴を要約すれば、_搬伽高コレステロール血症(FH)、PCSK9の2点であろう。その結果総合テーマはTranslating Atherosclerosis Research into Novel Therapies for Humansとなっていた。
学会前日のレセプションにはフランスのChapmanに会った。いつものように、いやいつも以上に明るく愛想よく挨拶を交わした。
後でそのわけが判った。第2回の国際動脈硬化学会Antonio Gotto Jr賞をChapmanが受賞したと知った。その授賞講演では、Gotto自身がChapmanの経歴、業績などを紹介していた。2003年9月に京都で開催された第13回国際動脈硬化学会のサテライトシンポジウムを金沢で開催したが,その時の演者の記念集合撮影を上映し、中にいるChapmanを紹介していた。後でロビーでGotto先生にお会いしたら,「写真を見たか?」「写真ですか?」と問いただしてすぐ気づき「どうも有り難うございました」と言った。
サテライト・シンポジウム当時、Chapmanとは面識がなかったが、Tallの推薦で招待した。Ph Dではあるが臨床にも造詣が深く、欧州動脈硬化学会(EAS)の会長をしている。前々回のボストンにおいてはSchaefer会長のサテライト・シンポジウムで一緒になってからあいさつをするようになった。2003年金沢での集合写真ではChapmanとともに、Thompson, Grundy, Tall, V. Brown, Knoppなどの大家が集っている。
今回、ロビーでお会いしたのは、Sacksで懐かしく家族の話などした。Gil ThompsonEndo賞の記念ディナーに招待されていた。SchaeferEndo賞設立の立役者であり,細やかな気配りで関連各位から感謝された。Watts教授はオーストラリアのFH研究の第一人者で、オーストラリアのPerth大学の教授である。Endo先生ご夫妻も出席され、和やかな記念パーティとなった。第1回のEndo Awardの受賞者はエゼチミブ発見者のDavisと決定した。
なお、3年後のISAはトロント、6年後は京都で開催されることが決定された。

 

Editing editorials

以前、同門会報に“文献の読み方”と題して次のような文を寄稿した。
 “最近までわが国の医学は全面的に欧米に依存しており、医学書とくに洋書は貴重なものであった。「クレンペラー(といっても若い人達には通じないが)を5回読んだ」などという逸話もあるように書物は少なく、有名教授の講義録なども出版された時代もあった。しかし、昨今では医学書は氾濫しており、選択に苦慮する程である。学生向きの教科書や入門書は通読すればよいが、研究のための文献の読み方には少なからず配慮が必要である。研究時間を無駄な文献読みに使いたくないからである。自分の研究テーマに関係した文献リストや文献コピーをコツコッ集めていた時代から、必要な文献リストはサマリー付きで瞬時に得られる時代となった。「文献学者」、「博学」、「物知り」が学者であった時代は去り、独創的な研究が求められるようになってきた。雑誌の構成は原著、症例報告、総説、論説からなっているものが多い。奪門外の動向や話題は論文のタイトルをみるだけで十分である。少し興味があればキーワード、サマリーに目を通すことになる。自分の専門分野の論文でも真贋を見極めるのは可成りむづかしい。最も簡単な方法は掲載された雑誌のランクに従い、一流の雑誌の論文は一流と考えてよい。三流雑誌に"堀出し物"はまずあり得ない。しかし、同一雑誌でも玉右混交である。論説(editorial)に取り挙げられた論文は評価が高いと考えられる。特に専門外の論文はeditorialを先に目を通してみるのも良い。editorialは論文のレフリーが書いていることが多いが、最近の研究の動向と当該論文の重要性について述べている。雑誌の巻頭を飾る論文も評価が高いといわれているが確証はない。表紙に論文の図を使用している雑誌では、当然"絵になる"ものや、話題性の高い論文から選ばれる。従って、一流雑誌の巻頭に載り、editorial付きで、表紙になったものは最高の論文といえる。原著はタイトル、サマリー、図表の順に目を通すが、方法などは必要がない限り読まなくてよい。序文では何故この研究が行われたのか経緯が判るし、考察では著者の考え方が判る。自分の論文が引用されているか否かは興味があるところであり、どの程度の評価を受けているかも判る。総説(review)の優劣の差は大きい。過去の成績や他人の説の羅列に終始したものは学生のレポートと大差はない。文献学者の総説は自らの経験や成績がないから訴えるものはない。本来、総説は自分の成績を軸として、他の人の成績を交えて書かれるもので、将来の動向を窺う(perspectives)でなければならない。何ら示唆が得られない総説はつまらない。
「備えあれば憂いなし」として文献を読むのは、臨床には必要かもしれないが、研究には全く無駄である。研究機器や研究テクニクを修得したから、「さて、これでできる研究はないか?」というのと似ている。研究テーマや問題提起は文献から生ずるはずがない。臨床から生じたテーマや問題を解決するために必要に迫られて文献を読むのである。「物知り」は研究にはほとんど無意味である。
正しい論文の読み方は良い論文を書くための基本でもある。“
今回の追記
 私の研究歴で大きなステップとなったのは以下の項目であるが、特記すべきいくつかの研究にはeditorialが寄せられている。
  • FHの診断と疫学に関する研究
  • FHの治療に関する研究とくにスタチンの開発
  • ホモFH治療におけるLDL-アフェレーシスの開発
  • CETP欠損症の発見とCETP阻害剤の開発
  • FHの遺伝子解析
  • PCSK9異常症の研究とPCSK9阻害剤の開発
 
 私の研究歴でNewsやEditorial, Comment, Viewsなどニュース性の高い論評に登場したことは少ないし、Review原稿は依頼されたことはあるが、科学ニュースの渦中に出たことはほとんどない。 思い起こすものでは、1981年New Engl J MedのEditorialに引用されたことや、1983年、ScienceのResearch Newsに登場したこと、 2012年New Engl J Medに登場、 2015年にはNature Reviews Endocrinologyの依頼原稿でNews & Viewsに採用されたことである。
 科学ジャーナルも一般新聞紙面と同様にニュース性が重んじられるのは当然で、一時期はエイズが、また最近ではエボラ出血熱が優先的に論文が採択されることは当然であろう。1981年にN Engl J Medに採択された際は、“重要な医学情報を持った論文は5週間以内に世界に情報を発信する必要がある”ので、校正は編集部へ電話するよう指示された。それ程、迅速性が重要視されていたのである。最近のN Engl J Medの編集方針がどうなっているかは知らない。
 1981年、スタチンをヘテロFH患者に投与した成績をN Engl J MedにMabuchi H, Haba T, Tatami R, et al. Effects of an inhibitor of 3-hydroxy-3-methylglutaryl coenzyme A reductase on serum lipoproteins and ubiquinone-10 levels in patients with familial hypercholesterolemia. N Engl J Med 1981;305:478-82.と発表したが、同誌のEditorialBrown MS, Goldstein JL. “Lowering plasma cholesterol by raising LDL receptors”. N Engl J Med 1981;305:515-7.が掲載された。当時、Brown & Goldsteinは新進気鋭の研究者であり、最も注目される立場にあり、4年後の1985年にはノーベル賞が授与される程であった。
 Brown & Goldsteinは言う“The goal of therapy in familial hypercholesterolemia is to reduce the concentration of LDL in plasma without disrupting cholesterol delivery to cells. The ideal approach is to stimulate the cells to produce more LDL receptors.
   In this issue of the Journal, Mabuchi et al. report a detailed study of compactin’s effects on lipoprotein levels in human beings. They used extremely low doses of compactin, less than one tenth the amount used in the dog studies. Yet they observed a dramatic 29 per cent reduction in plasma LDL levels in subjects with heterozygous familial hypercholesterolemia.(中略)
 Many hurdles must be overcome before compactin or mevinolin can be accepted as a “penicillin” for hypercholesterolemia. No long-term studies of toxicity have been reported in animals or patients. (以下省略)
 その当時のBrown & Goldsteinの心境は2004年の遠藤博士のスタチン発見30周年記念論文集に寄稿されている。論文にはない心情を交えた内容になるのが論説である。 その中で、BrownとGoldsteinは次のように述懐している。
 Our confidence in statins was strongly reinforced when we saw Mabuchi’s 1981 paper in The New Engl Journal of Medicine on the treatment of FH heterozygotes with compactin.[Mabuchi H, et al. New Engl J Med. 305; 305, 1981.] Heterozygotes have one copy of a normal gene for LDL receptors, but this gene is partially suppressed by cholesterol. Compactin relieves this suppression, up-regulating LDL receptors and lowering plasma LDL. We communicated our excitement in the editorial that we were invited to write to accompany Mabuchi’s article, which we entitled “Lowering Plasma Cholesterol by Raising LDL receptors”. Although we were enthusiastic, we cautioned that many hurdles had to be overcome before compactin would be a drug. Among these was the ever-present concern that was not laid to rest until Merck conducted the landmark EXCEL study after the approval of lovastatin.
Brown MS, Goldstein JL. A tribute to Akira Endo, discoverer of a “Penicillin” for cholesterol. Atheroscler Suppl. 2004 Oct;5(3):13-16.
Brown & Goldsteinの興奮とその23年後の心境も書かれており興味深い。
 
 2012年Stein EAらが、健常人、FH、および非FH患者に対するPCSK9モノクローナル抗体の効果を発表した。
 Stein EA, Mellis S, Yancopoulos GD, et al. Effect of a monoclonal antibody to PCSK9 on LDL cholesterol. N Engl J Med 2012;366:1108-18.
この論文に付随してYoung SG & Fong LGがLowering Plasma Cholesterol by Raising LDL Receptors --- Revisited. と題するeditorialが発表された。RevisedではなくRevisitedであることに注意しなければならない。
冒頭に”Thirty-one years ago, Mabuchi and colleagues reported in the Journal that a statin called compactin reduced plasma low-density lipoprotein (LDL) cholesterol levels by 29% in patients with heterozygous familial hypercholesterolemia. This drug inhibits an early step in cholesterol synthesis catalyzed by the enzyme 3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A (HMG-CoA) reductase. In an accompanying editorial entitled “Lowering Cholesterol by Raising LDL receptors,” Brown and Goldstein noted that heterozygotes for familial hypercholesterolemia have a deficiency of LDL receptors on cells, resulting in reduced cholesterol uptake by cells and high levels of cholesterol in the plasma.”(中略)
   In their 1981 editorial, Brown and Goldstein concluded that “important lesson” of the compactin studies was that “normal regulatory mechanisms can be exploited to lower plasma LDL.” The PCSK9 story reinforces this paradigm in an emphatic fashion. And although the discovery of PCSK9 is an exciting chapter in the cholesterol story, no one should assume it is the last. For example, the research group of Tontonoz recently identified an intracellular protein, IDOL (inducible degrader of the LDL receptor), that targets LDL receptors for degradation, much like PCSK9. As trials of PCSK9 monoclonal antibodies race ahead in lipid clinics, efforts to identify IDOL inhibitors are probably already under way.
 31年前にスタチンの効果を発表したが、その作用機序に関してBrown & Goldsteinが論評したものである。その作用機序が今回のPCSK9抗体に通じるものがあると評している。Brown & GoldsteinにとってはLDL-Rの合成分解に関して他の因子が関与し、その作用に及ぼす物質がLDL-R増加剤になる可能性を見透かしていたと思われる。
 目下、PCSK9モノクローナル抗体は3剤開発中であるが、いずれも有効であることはたびたびブログで紹介してきた。LDL-C低下率は40〜60%であり、スタチンと併用した場合はさらに20%のLDL-C低下上乗せ効果が期待できる。心血管系疾患のイベントをエンドポイントとした長期安全性と有効性に関する大規模臨床試験も計画されている。
PCSK9阻害剤の開発は爆発的であり、モノクローナル抗体が最も急速な進展を見せており2003年にPCSK9変異によるFHが発見されてから13年前後で、薬剤が発売されようとしている。
ヘテロFHとホモFH例におけるエボロキマブ(AMG145)の効果について図1に示した。当然のことであるが、ヘテロFHに対してPCSK9阻害剤(モノクローナル抗体を含む)が著効を示すが、ホモFH症例では効果が鈍る。ホモFH例では対立遺伝子がともに変異があるため、残存レセプター機能がどの程度あるかにより、薬剤の刺激でどれほど賦活化されるかが決め手となる。今後、FHに対する効果を推定するためにもLDL-レセプター機能を検討することが必須となろう。

この論文がLancetでプリントされる前にオンラインで発表され、多大の反響を呼んでいるわけだが、そのことに関連してNature姉妹誌から原稿依頼があり、News and Viewsの欄を執筆した。Natureの姉妹雑誌は多いが、Nature Reviews Endocrinology (NRE)のインパクトファクターは12.956である。
 Nature Reviews Endocrinologyの依頼内容は
Dear Professor Mabuchi,
As a recognized leader and author in your field, I believe that you would be a key contributor to the quality of Nature Reviews Endocrinology, and so I would like to invite you to write a News & Views FV article on the following 2 original research articles
Raal et al, 上記 and Raal et al, 上記
News & Views will provide a forum in which clinical advances can be communicated and set into context. The articles also aim to discuss the impact new results might have on practical patient care. News & Views are around 1,000 words plus 10 references maximum.
Nature Reviews Endocrinology's current Impact Factor is 12.958 (2013 ISI Journal Citation Reports) and to-date over 58,000 people have registered to receive our electronic Table of Contents every month.
If you accept our invitation, we would hope to receive the first draft of your article by 17 October 2014, after which it will be edited to reinforce the high quality of the journal. I appreciate that this is a short deadline, but we try to keep our articles as timely as possible to provide the most benefit for our readers, and
given the shortness of the article, we do not anticipate it taking a long time to write. (以下省略)
年内は論文も書かなくてもよかろうと考えていた矢先、短い論文とはいえ10日以内の投稿が義務づけられ、パニックに近い状況になった。何とか設定日時をクリアして、online publicationの発表ができ、LancetのRaalらの本論文発行前に出版することができた。論文は丁度2ページとなり、無駄なく印刷され、きれいな論文となった。
 Raalらの論文内容から作図するとヘテロ接合体性FHではLDL-Cは65%減少し、ホモ接合体性FHでは30%しか減少しなかった(下図1)。この効果の差は当然と理解できる。われわれがViewsで述べたようにヘテロFHでは対立遺伝子の片方が変異した遺伝子であるが、他方は正常遺伝子であるため、PCSK9がモノクローナル抗体でブロックされれば正常に発現したLDL-レセプター(LDL-R)が増えることになり、LDL-Cの低下効果は大きい(図1)。ホモFHでは両方とも変異遺伝子であり、PCSK9でLDL-R増加しても機能が回復しないことが予想される。FHに対するPCSK9の効果を検討するために、FH遺伝子の解析、LDL-R機能の判定が重要になると思われる。
 PCSK9モノクローナル抗体に関するeditorialは多いが、我々が直接的または間接的に関係したものは限定されるが、非常に興味深い。
 
 動脈硬化症とコレステロールに関するドグマは“LDL-Cは悪玉コレステロール、HDL-Cは善玉コレステロール”である。LDL-Cを下げるためにはHMGCo-A還元酵素阻害剤(スタチン)とPCSK9阻害剤(PCSK9モノクローナル抗体)があるが、残余リスクの対策はHDL-C増加薬の開発である。著明な高HDL-C血症を示す症例がcholesteryl-ester transfer protein (CETP)欠損症であることを発見したのは我々である。この疾患では血中CETPは欠損し、HDL-Cは100〜200mg/dlに上昇し、動脈硬化性疾患は少ないと発表した。我々の研究成果が発端となり、CETP阻害剤の開発が急速に進むこととなった。先陣を切ったのはファイザーのトルセトラピブであった。CETP欠損症と同様、劇的なHDL-Cの増加とLDL-Cの低下があり、これこそ理想的なコレステロール治療薬と期待された。
 
 CETP欠損症とCETP阻害剤の開発
Koizumi J, Inazu A, Yagi K, et al. Serum lipoprotein lipid concentration and composition in homozygous and heterozygous patients with cholesteryl ester transfer protein deficiency. Atherosclerosis. 90(2-3):189-96, 1991). CETP欠損症を発見し、その遺伝子異常を発表したのは我々であるが(Brown ML, Inazu A, Hesler CB, et al. Molecular basis of lipid transfer protein deficiency in a family with increased high-density lipoproteins.
Nature. 342(6248):448-51,1989). いずれもEditorialがなかったのは、未だ注目度が低く、話題性もなかったと思われる。むしろ、薬剤開発の行き詰まりがあってから、注目度が高まったのは皮肉なことであった。注目度ががぜん高まったのはいくつかのCETP阻害剤が挫折してからである。
 ファイザー社の社長Kindler JB氏は2006年12月1日新しい心臓薬としてCETP阻害剤(トルセトラピブ)を米国FDAへ申請すると2006年12月1日プレスインタービューで発表した。わずか2日後、この薬剤の開発を中止するとニューヨークタイムズに発表し、学会は勿論、製薬会社などでもショックをもたらすこととなり、CETP阻害剤開発の善し悪しが論議されることとなった。
 CETP阻害剤に関して、多くのeditorialが発表される中、Tall ARが精力的に論議を展開していたが、我々の共同研究者であり、ここでは省略する。別の機会にゆずるがCETP阻害剤の将来性を硬く信じており、今後とも注意深く見ていかなくてはならない。コレステロール治療薬に関する総説を纏めることも考えている。
 

HDLのコレステロール引き抜き能と心血管系イベント

多くの疫学的な成績から低HDL血症と心血管系イベントの間に負の相関が実証されているが、CETP阻害剤などによる一部の大規模臨床二重盲検比較試験ではHDL-コレステロールは明らかに増加するが、心血管系イベントが必ずしも減少しないことが指摘されている。また、遺伝的に規定されたHDL-Cレベルが心血管系イベントと関係しないことがあり、HDL-Cレベルが心血管系イベントの発症の規定因子とはならないのではとの疑問が発生している。HDL-Cの抗動脈硬化作用はいくつか指摘されているが、最も重要な作用機序は末梢組織からコレステロールを引き抜き肝臓へ運ぶ第1歩が重要と考えられ、マクロファージ特異性のコレステロール引き抜き効果が重要視されている。この研究では、コレステロール引き抜き能と心血管イベント発症を疫学的に検証したものである。
心血管系疾患のない2924例を対象にHDL-C値、コレステロール引き抜き能などを検討した。経過観察は9.4年である。
結果:HDL-C値は伝統的な危険因子や代謝因子と関連するのに対し、コレステロール引き抜き能はあまり関連性がなかった。ベースラインのHDL-Cは心血管イベントと相関は乏しくハザード比は1.08で有意差はなかった。さまざまな危険因子を補正してコレステロール引き抜き能を4分画に分けて検討すると、引き抜き能が最も高い分画では、低い分画と比べ、リスクは67%低下し、ハザード比は0.33であった。
以上より、コレステロール引き抜き能はコレステロール逆転送系の主たるステップの評価に適していた。この成績はコレステロール引き抜き能が新しいバイオマーカーとなりうることを示した。
Rohatgi A, et al. HDL Cholesterol Efflux Capacity and Incident Cardiovascular Events. N Engl J Med. 371;2383-2393, 2014



 

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