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遠藤章先生からの投稿

  遠藤章先生からの投稿

スタチンの発見者で、私達の脂質研究講座の客員教授である遠藤章先生が最新の海外ニュースの中から特筆すべき記事を翻訳して投稿して下さいましたので掲載致します。

原文は米国最高の病院の一つと言われるマサチューセッツ総合病院の定期刊行物Protoに掲載されたものです。

 

スタチンにはどんなメリットかあるのか?

コレステロール値を下ける//心疾患のリスクが減る//筋肉痛と疲労の原因になる// それほど寿命を延はすことはできない

 

心臓か変わる?

:ティモシー・ガウアー(Timothy Gower) 挿絵:ジャン=フランソワ・マーチン (Jean-Francois Martin)

 

遠藤章は自分の出番を待ちながら、部屋を見回した。獣医から科学者まで、そうそうたる人々が集まっていた。1977 年のこの日、フィラデルフィアで開催された脂質代謝関連医薬に関する第6 回国際シンポジウムに出席するため、彼は東京から来ていた。この日は青緑色のカビに含まれるコンパクチンという分子の発見について報告することになっていた。 遠藤は大学時代、アレキサンダー・フレミングが、カビの生えた培養皿にペニシリンを発見したことに感銘を受けた。ペニシリン等の抗生物質は、様々な酵素の働きを阻害する能力があることを知っていた遠藤は、カビを調べれば、コレステロール値を高めるHMG-CoA還元酵素の抑制物質が見つかるのではないかと考えた。当時はコレステロールと心臓発作・卒中との因果関係が明らかにされたばかりだった。

フランス人科学者が、コレステロール低下薬「フィブレート」についての発表を終え、 遠藤章は演台に立った。すると聴衆は次々と部屋から出ていった。残った30 人そこそこが、「HMG-CoA還元酵素の拮抗阻害剤ML-236 Bが、コレステロール代謝に及ぼす影響」と 題した彼の発表に耳を傾けた。発表が終わっても、誰も質問しようとしなかった。

遠藤は意気消沈して会場を後にしたが、日本に帰る前に、テキサス大学サウスウェスタ ン医学センター(Texas Southwestern Medical Center)に立ち寄った。このセンターの研究所に勤務するマイケル・ブラウン(Michael Brown)とジョセフ・ゴールドスタイン (Joseph Goldstein)に招かれていたのだ。彼らはコンパクチンに関する遠藤の論文をいくつか読んでいた。ブラウンとゴールドスタインはマサチューセッツ総合病院 (Massachusetts General Hospital)のインターン時代に出会い、コレステロール代謝に関する画期的な研究をすることになった。

その大きな成果の1つとして、彼らは 1973 年に血液中の「悪玉」コレステロールを除去する低密度リポプロテイン(LDL)と呼ばれる受容体を発見した。遠藤はこの2人の科学者との共同研究の合意を取り交わした。そしてこの共同研究により、コンパクチンの薬効はHMG-CoA還元酵素の阻害に留まらないことが実証されることになった。フィラデルフィア会議の聴衆はコンパクチンに全く興味を示さなかったが、製薬会社の態度は違った。そして遠藤のHMG-CoA還元酵素の発見は、「スタチン薬」と呼ばれる薬剤の開発を促すことになった。この薬の誕生から、来年で25 年になる。

アメリカで初めて市販されることになったスタチン薬メバコール(ロバスタチン)は、1987年、食事制限によるコレステロール値の管理が不可能な患者の治療薬として、米国食品薬品局(FDA)に承認された。その後片手では数えきれないほどのスタチン薬が発売され、スタチンは現在米国で最も広く処方されている薬の1つとなっている。多くの医師が認めているように、LDLコレステロールを 3555%も下げるとされるスタチンは、最も重要な近代医学の進歩に数えられるだろう。「ぺニシリンを除けば、スタチンはこれまでに開発されたどの薬よりも、大きな影響を及ぼした」と語るのは、マサチューセッツ総合病院予防心臓病センター長セカール・キャサレサン(Sekar Kathiresan)である。

しかしこの薬は、その重要な開発段階で何度も断念されかかった。スタチンの擁護者は、この薬の安全性を確信していたが、スタチン薬は当初から副作用の報告が絶えなかった。服用後の筋肉痛と疲労を訴える声が最も多かったが、時には記憶力の衰えや鬱といった認知的・心理的問題も報告された。この薬は一般的に不快な副作用を伴うと受け止められており、服用をやめてしまう人が多かった。ある治験では、スタチンを処方された高齢患者の4人に3人が、5年もしないうちに指示通り服用しなくなることがわかった。

これに以外にも、スタチンの薬効を疑う声が絶えず、「不必要なのに処方された」と主張されたりした。こうした批判は最近になって特に勢いを増しているようである。2010 3 月、タイム誌のある記事は、スタチンの安全性と女性への薬効を疑問視していた。その 3ヶ月後、アーカイブス・オブ・インターナル・メディシン(Archives of Internal Medicine) 誌に、心臓病の一次予防にスタチン薬を利用する是非を問う記事と論説が多数掲載された。処方されるスタチン薬の4分の3が、まだ冠動脈疾患を発症していないハイリスク患者の一次予防のため、とされている。JUPITER 試験の「米国ではスタチンの処方がまだ不十分である」という研究結果は、アーカイブス誌で特に激しく批判されることになった。その編者リタ・レドバーグ(Rita Redberg)は、「医師は科学的証拠に基づいて医療を実践すべき」とし、「スタチンが一次予防に有効なことを示す確かな証拠はない」と述べた。

スタチン薬を、米国だけでなくほぼ世界中で主要な死因となっている病気の、特効薬と見なす医師もいれば、それは単なる幻想に過ぎず、多くの患者に空望みと潜在的な危害を与えるだけと非難する医師もいる。これはなぜだろうか?

悪評高いコレステロールだが、実際には健康に欠かせない成分である。体内の細胞を覆う膜を作るには、特定のホルモンや胆汁酸、ビタミンDと同様に、コレステロールも欠かせない。しかし195060 年代の疫学研究の結果から、血中コレステロール値の高い人は、 心臓発作のリスクが高いことがわかった。続いて行われた調査により、LDL粒子として体内細胞に運ばれるコレステロールが、この問題を引き起こしていることが証明された。

血中コレステロールの68 割が、LDLによって運び込まれる。(これに対して、高密度 リポタンパク質[HDL]は、余分なコレステロールを肝臓に運んで再利用あるいは除去できるようにする。) LDL粒子には動脈壁に入り込むという厄介な性質があり、動脈壁に蓄積されるプラークの主要な構成要素となる。このプラークはやがて炎症を生じさせ、動脈内の血流を遮ることで心臓発作と卒中を引き起こす。ほとんどの医師が、現在のガイドラインに従い、患者のLDLコレステロール値がデシリットルあたり130 ミリグラム以上で、心疾患の他の危険因子(喫煙、高血圧、心疾患の家族歴など)が見られる場合、スタチンの処方を検討することになる。

遠藤がコンパクチンを発見した後、三共研究所とメルク社、1976年、この化合物のサンプルと実験データを共有する契約を取り交わした。当時は数種類のコレステロール低下薬が利用されていたが、その薬効は限られており、中には問題のある薬もあった。例えば現在もしばしば処方されているコレスチラミンは、粉末薬であるため水などの液体と混ぜる必要があるが、決して味のいいものではない。よりよいコレステロール低下薬の開発が、製薬会社の最優先課題となった。そしてメルクの科学者らは、後にロバスタチンという一般名で知られるようになる、コンパクチンに似た化学物質を特定することになる。

スタチン薬の第1号が承認されてから約25年になるが、「ペニシリンを除けば、スタチンはこれまでに開発されたどの薬よりも大きな影響を及ぼした」

メルク社が男女被験者へのロバスタチン治験を既に開始していた1980 年、三共は突如コンハクチンの臨床試験を中止し、この薬の開発を見送ることにした。何の説明もなされなかったが、「ヒト用量の100200倍もを投薬したイヌに腫瘍が発見された」という噂が広まった。メルク社は用心のためロバスタチンの臨床試験を中断したが、後の社内安全試験により、動物実験でこの薬には発癌性がないことが確認されたとして、1984 年に大規模臨床試験を再開した。

1980 年代の初めには、コレステロール値低下が心臓病の予防と患者の救命に有効だという確かな証拠はほとんどなかったため、コレステロール低下薬の考え方に、依然として懐疑的な医師もいた。しかし 1984 年、ある画期的な研究結果が発表された。コレスチラミンによりLDL値を低下させることで、冠動脈疾患のリスクが19%下がったという。この発見により、多くの医師が態度を変えることになった。メルクの臨床試験では、ロバスタチンにはさらに強力な薬効があることがわかった。LDLコレステロール値が39%も下がったことで、メバコールは 19878 31 日に FDA の承認を受けた。ニューヨークタイムズ(New York Times)紙は、この新薬が「高コレステロール値の治療に革命をもたらすだろう」と報じた。

それから四半世紀を経た今、この大げさな予測さえも、多くの人にとっては控えめなものになっている。そしてまたこの薬は製薬業界に著しい恩恵をもたらし、メバコールに続き、ゾコール(シンバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、バイコール(セリバスタチン)、クレストール(ロスバスタチン)、そして最近ではリバロ(ピタバスタチン) といったスタチン薬が次々と開発されている。

スタチン薬は、かねてから「LDL 値が高いと心血管疾患のリスクが高まる」と考えていた多くの医師からは直ちに歓迎されたが、他の医師はそのコレステロール低減効果、そしてもちろん安全性に、依然として懐疑的だった。これには一つには、スタチン投与が肝臓 障害と白内障を招くのではないか、という初期の懸念が影響していた。(現在では、スタチンの服用者に、肝臓と目の定期検診を求めていないが、肝臓病歴のある患者への投与は避けるべきとされている。)しかし、英国医師会雑誌(British Medical Journal)(BMJ)誌に、1990 年に発表されたある論文が、新たな懸念を呼び起こした。コレステロールを低下させることで(食事制限、あるいはコレスチラミン、クロフィブレート、ゲムフィブロジルといったスタチンが開発される前の薬剤の投与により)、死亡事故、自殺、殺人のリスクが高まるというのだ。その関連性の機序は説明されておらず、「コレステロール値を下げることで、脳に変化が生じ、攻撃的・暴力的な行為が促されるのではないか」とだけ述べられていた。さらに BMJ 誌に「コレステロール値が下がると冠動脈疾患患者の死亡率が低下することは確かだが、患者の延命にはつながらない」という研究結果が掲載され、この見解はその後の研究でも繰り返し述べられることになった。

それにもかかわらず、スタチン服用者は着実に増えていった。これは1つには、1994 年の重要なスカンジナビア研究により、ゾコールを毎日服用することで、心血管疾患患者の心臓病による死亡リスクが42%下がったという報告がなされたことによる。ところが2001年、バイコール服用者の1 部が横紋筋融解症(筋肉疲労)を発症したことがわかり、この薬は市場から撤去された。死亡例も数十件報告された。

それ以外のスタチン薬の服用者に、横紋筋融解症という副作用が生じるのはごくまれであり、コレステロールの先駆的研究者ダニエル・スタインバーグ(Daniel Steinberg)の著書「The Cholesterol Wars: The Sceptics vs. the Preponderance of Evidence(コレステロール戦争:懐疑的な声vs 証拠の優越)」によれば、その発症率は20 万人に1人に過ぎない。 それでもやはり、筋力の低下と痙攣を招く筋疾患は、スタチン服用者に最も頻繁に見られる副作用であり、それゆえにこの薬の服用を躊躇する患者もいる。スタインバークは「スタチン服用者の 1015%に筋肉関連の副作用が生じる」と推定しつつも、こう宣言する。「そうであっても、これは驚くほど安全な薬だ。重大な副作用が、これほど少ない薬は、今まで見たことがない。」 しかしカリフォルニア大学サンディエゴ校の彼の同僚ベアトリス・ゴロム(Beatrice Golomb)その他の研究者は、スタインバーグほど楽観的ではない。ゴロムはスタチンと永久的な筋損傷、および記憶喪失といった認知的問題との関連性を探る論文を、いくつか発表しているが、スタチン服用者による副作用の投稿が掲載されたウェブサイト (statineffects.com)のデータを論拠としているため、批評家は彼女のやり方を問題視している。スタインバーグはゴロムが「対照群を用いていない」と指摘するが、ゴロムはこれに「無作為化対照試験では、病気の人や他の薬の使用者など、最も有害事象を被り易い人を排除する場合がある」と反論する。

スタチンが『長生き』という究極的な健康上のメリットをもたらすとは思えず、誰もが『コレステロールを下げることは重要』と信じ込まされているが、果たしてそうだろうか?

そして、残存する不快感と衰弱が「相当数の患者に」見られるとして、「スタチン薬による筋肉痛や疲労は、この薬の服用を止めた途端に消える」という通念に挑む。この薬が認知的問題を引き起こすというゴロムの主張に、スタチン薬の擁護者は「記憶の衰えは中年以降のスタチン服用者にありがちな現象」だと指摘する。ゴロムは「それなら、スタチンの服用を止めた突端に、記憶を取り戻すのはなぜか?」と反駁する。ゴロムは「スタチンの服用により寿命が延びるのは、現在心臓病に罹っている中年男性に限られる」ため、彼女自身は「女性や高齢者といった年代の患者には、スタチンをめったに処方していない」と言う。彼女だけでなく、他の研究者も、治験の多くは「明確な心 臓病の見られない患者への、スタチンの薬効を試している」として、一様にこう結論する。「スタチン服用者が心臓病に罹る例は少ないが、一定期間の死亡率は、プラセボ服用群と大差ない。」

医師の中には、「スタチンが『長生き』という究極的な健康上のメリットをもたらすとは 思えず、誰もが『コレステロールを下げることは重要』と信じ込まされているが、果たしてそうだろうか?」と訝る人もいる。レドバーグは言う。「『心臓病のリスクをなくせば、もっと長く生きられる』と誰もが思うだろう。しかし実際にはそうとは限らないことがわかった。それなら、この先ずっとスタチン薬を服用し続けるメリットがあるのか?

スタチン薬の擁護者は、この薬によって寿命が延びることはないと結論した過去の研究は、不適切で誤解を招くものだと主張する。「レドバーグの解釈は不完全なデータに基づくもので、私の考えとは全く違っている」と言うのは、ジョンズ・ホプキンス・シンカロン心臓病予防センター(Johns Hopkins Ciccarone Center for the Prevention of Heart Disease)長ロジャー・ブルーメンソール(Roger Blumenthal)である。そして「スタチン薬の一次予防治験の多くは、まだ 4,5 年前に開始されたに過ぎない」とし、「このような短い期間に、心臓病等の病気で死亡する人は少ないだろう。従ってスタチン服用の延命効果を立証する有意なデータを得るのは難しい」と言う。

ブレーメンソールを始めとする研究者は、アーカイブス誌で攻撃の矛先とされているJUPITER 試験は、スタチン薬投与による一次予防の、強力な救命効果を立証している、と考える。JUPITER(Justification for the Use of Statins in Prevention: An Intervention Trial Evaluating Rosvastatin[スタチンの予防効果の証明:ロスバスタチン評価のための介入試験])の目的は、心臓病の謎を探ることだった。「謎」とはつまり「心臓発作・卒中患者 の半数が LDL コレステロール値130mg/dL 未満であるため、現在のガイドラインに従えば、そのほとんどはスタチン治療の対象とならない」というものである。しかしスタチンには、コレスレロール低下機序以外の生物学的効能があり、これらは心臓にメリットをも たらすと考える科学者もいる。その1つは、初期の研究で心臓発作・卒中リスクの高さに関係するとされた、動脈の炎症が少なくなることである。JUPITER は、現在 LDL 値が正常だが顕著な炎症のある患者への、スタチン投与による心臓発作・卒中リスクの予防効果を探るための試験だった。

この試験では男女約18,000名の参加を募った。これらの被験者は、明らかに健康で LDL 値が正常だが、全身性炎症の指標であるC 反応性タンパク質の値が高い人々である。その半数をクレストール投与群、残りの半数をプラセボ群として調査したところ、驚くべき結果になった。クレストール投与群では、心臓病と卒中のリスクがほぼ半減したのである。 さらにこの治験の実施中、スタチン服用者の死亡率が全体で20%低下した。ブレーメンソールとその同僚の分析によれば、JUPITER の結果から、CRP が高くスタチン薬を処方すべき成人は、米国にはさらに 650 万人いると考えられる。この試験結果の分析から予測さ れるように、これらの候補者全員がスタチン薬を服用すれば、米国の心臓発作その他の心血管疾患の症例のうち 260,000 件が、わずか5 年間で防止できることになる。

JUPITER は、「スタチン薬を使い過ぎだ」と感じている懐疑派から、激しく批判されることになった。アーカイブス誌に掲載されたある論文は、いくつかの理由で「この治験には欠陥がある」とし、著者は偏見を抱いていると非難した。その主な理由として、2003年から 2008 年まで実施された JUPITER は、クレストールのメリットを実証した独立の監視機関によって、当初の予定よりも早く終了されたことが指摘され、「治験を早期に終了させることで、実験的治療のメリットは誇張されがちだ」という非難を浴びた。また JUPITER の筆頭著者であるホストンのフリカム・アント・ウィメンズ病院心血管疾患予防センター (Center for Cardiovascular Disease Prevention at Brigham and Women's Hospital)長 ポール・リドカー(Paul Ridker)が、全身性炎症のレベルを測定するhs-CRP試験の発明 者であることも、問題だとされた。「Overdosed America: The Broken Promise of American Medicine(過剰投与されているアメリカ人:アメリカ医学の約束違反)」の著者で、ハーバード・メディカル・スクールで健康政策を教えるジョン・アフラムソン(John Abrason)も、このアーカイブス誌の論文の執筆に加わった。彼は、「医師も患者も、食生活や日常的 な運動、禁煙といったライフスタイルへの介入を含む、より効果的な心臓病予防法ではなく、コレステロールに過剰なほど注意するよう教えられてきた」と訴える。

しかし心臓専門医の多くが JUPITER を擁護するようになってきた。ブルーメンソール はこのアーカイブス誌の記事を「悪意に満ちた批判に他ならない」とする。リドカーは、 自分のデータの完全性を疑う声に反論する記事をいくつか書き、その中で「JUPITER が早 期に終了されたからといって、クレストールのメリットを誇張することにはならない」とし、「それどころか、特に心血管疾患のリスクが低下したのは、最も長い期間(5 年以内) 追跡調査した患者であることが、このデータで証明された」と述べた。さらに FDA の分析でも、スタチンの薬効が誇張されたという証拠は見出されなかった。リドカーは心臓に良い生活習慣を患者に勧めることは重要だとし、「実際のところ私は生活習慣を変えることを積極的に奨励している」としながらも、「だが無作為化二重盲検プラセボ対照試験で実証された治療法を否定するのは、医者の怠慢だ」と述べている。

JUPITER の参加者の 3 分の 1 以上が女性であったことから、この試験の結果は、「女性にスタチンを投与するメリットは何か」という議論に火をつけることになった。懐疑派は、 JUPITER のデータでは、クレストールを服用した女性の死亡率が、プラセボ群よりも有意に下がったわけではない、と指摘する。しかし、リドカーの共同研究者である、心臓専門医のサミア・モーラ(Samia Mora)は、「JUPITER の傾向データから、もっと長い期間この研究を行っていたら、女性の延命効果が明確に確認されたはずと考えてよい」とする。 さらに「この研究結果から、スタチンの服用女性の心血管疾患問題は、全体的に少なくなることがわかる」と言う。「一度でも心血管疾患に罹れは、死亡率が高くなることが、先の 研究で証明されている」ため、「これらの心疾患問題の予防は、究極的には救命につながる」 と論理的に結論できるとする。

スタチンには、コレステロール値が高くない人にも、心臓病の予防効果があるらしい。こ れはなせぜだろうか? ― スタチン薬はコレステロール値を下げるだけでなく、炎症も防止する。

しかし依然として疑問が残る。スタチンには、コレステロール値が高くない人にも、心 臓病の予防効果があるらしい。これはなぜだろうか?リドカーは「スタチには二重のメリットがある」と考える。そして「スタチン薬はコレステロール値低下と炎症防止という二重の機序により心臓を守る」という仮説の第2の機序を検証するため、「今後はコレステロール値に影響しない抗炎症薬メトトレキサートを CRP値の高い患者に投与し、その心臓発作その他の心血管疾患の予防効果を確認したい」としている。(スタチンが炎症を防ぐ機序については諸説あるが、確かな説はまだない。)

FDA は、クレストールの製造業者アストラゼネカ(AstraZeneca)社が、CRP をクレストール処方の適応症に加えることを許可している。スタチンの抗炎症効果についてはまだ議論されていないが、その心臓病予防効果を訝る観察者もいる。スタインバーグは 「JUPITER にはコレステロール値も CRP も低い第三被験者群を含めていない」と指摘する。「これはコレステロール値が低いがCRP が高い被験者の対照群となったはずだが、この比較ができないために、スタチンによる CRP 治療に心臓発作の予防効果があることを確認する手立てがない。」そして「C 反応性タンパク質が正常な人も低い人も、スタチンの服用の効果は同じだったかもしれない」と認めながらも、「この研究は、スタチンを投与するなどのコレステロール介入手段を、早くから積極的に使うべきだという、強力な証拠となっている」と考える。この研究の被験者の LDL 値正中ベースラインはデシリットルあたり108 ミリグラムで、これは現在の基準では正常とみなされるが、スタインバーグは「コレステロール値はデシリットルあたり 5070 ミリグラムとすべき」と数十年前から主張している。彼は「心臓病の生涯リスクが35%と非常に高い患者は、30 歳のうちからスタチン治療を開始すべき」だと考える。

スタチンに二重のメリットがあるかどうかはまだ証明されておらず、依然として疑念の声があるが、この薬はさらに広く利用されるようになるだろう。2012 年までに、リバロを除く全てのスタチン薬が、ジェネリック薬品として市販されると予想され、そうなれば値段はもっと下がり、手に入れやすくなるだろう。ほとんどの心臓専門医が、LDL 値をさら に低下させるような追加的治療を喜んで受け入れるだろうが、スタチンを心臓病のリスクのある患者に処方できることを、今後も感謝し続けることになろう。

オー・ヘンリーの小説に匹敵する「意外な結末」として、スタチン第1号の発見者は、2000 年の健康診断で、自身の LDL 値が高くなったことを知った。遠藤は医者から「心配 しなくていいですよ。コレステロールを下げる特効薬を知っていますから」と言われた。 しかし、実に意外なことに、遠藤はスタチン処方を断ったという。彼の LDL 値は「若干高くなっただけ」なので、「運動量を増やしてコレステロールを管理することにした」そうだ。 しかし結局は自分の薬を飲んでいるという。「運動してもあまり効果がなかった」ため、今 はスタチンを服用しているらしい。「でも、その商品名を言うのは、止めておきましょう」 と、彼からのEメールに書かれていた。

 

スタチンの紆余曲折()

1769 年:フランス人科学者フランソワ=ラサール(Francois Poulletier de la Salle)、胆汁と胆石にコレステロールを発見。 1823 年:別のフランス人科学者ミシェル・シュヴェルール(Michel Chevreul)、動物性脂肪 に「コレステリン」(当時の名称)を発見。コレステリンとは「胆汁」と「固形化したもの」

を組み合わせた名前(科学者らは後にこれがアルコールの 1 種であることを知り、「コレステロール」と改称した)1833 :血中に初めてコレステロールが検出された。 1910:ドイツ人科学者アドルフ・ヴィンダウス(Adolf Windaus)の研究により、コレ ステロールが細胞壁のプラークの主要な構成要素であることがわかり、コレステロールと心臓病の関係が明らかになった。

1939 :ノルウェーの科学者らの研究により、大規模家族の一部において、コレステロール値が極端に高く、若いうちから心臓発作を起こすことがわかった。この症状は後に家族性高コレステロール血症と呼ばれることになる。 1950 :カリフォルニア大学バークレー校のジョン・ゴフマン(John Gofman)率いるチームが、LDL コレステロールと HDL コレステロールを単離する方法を開発。このチーム の実験結果から、LDL コレステロール値の上昇と心臓病のリスクの関係が示唆された。 1950 年代後半:フラミンガム心臓研究により、健康に見える人でも、コレステロール値が高いほど、心臓発作のリスクが高くなることが初めて証明された。

1960 年代:利用できるコレステロール治療薬(コレスチラミン、ニコチン酸、フィブレー ト、トリパラノール)は、薬効が限られていることがわかった。 1962 :トリパラノール服用者の一部から白内障と脱毛が報告され、FDA はこの薬のメー カーが動物実験の安全性に関するデータを改ざんしたことを発見。トリパラノールは市場から撤廃された。

1964 :ドイツ人科学者コンラッド・ブロック(Konrad Bloch)とフェオドル・リネン (Feodor Lynen)は、体内のコレステロール合成機序を解明したとして、ノーベル賞を受けた。 1966 :オスロ研究により、低飽和脂肪食によりコレステロール値も心臓病のリスクも下がることが証明された。

1978 :家族性高コレステロール血症の日本人女性に、スタチン薬第 1 号コンパクチンが初めて投与されるが、筋力低下と萎縮が生じた。 1985 :マイケル・ブラウン(Michael Brown)とジョセフ・ゴールドスタイン(Joseph Goldstein)は、LDL 受容体の役割の発見などのコレステロール代謝に関する研究によりノーベル賞を受けた。

1987 :米国食品薬品局がメバコール(ロバスタチン)を承認し、米国で初めてスタチン薬が市場化されることになった。 1990 :英国医師会雑誌に掲載された6 つの研究のメタ分析から、コレステロール値を下げることで、心臓発作による死亡を防ぐことができるが、自殺、殺人、事故死のリスクが高まると結論された。

1994 :スカンジナビア・シンバスタチン生存研究(Scandinavian Simvastatin Survival Study)により、スタチンは心血管疾患患者の心臓病による死亡のリスクを42%下げることがわかった。 2001:バイコール(セリバスタチン)が、特にもう1つのコレステロール薬であるゲム フィブロジルとの組み合わせた場合に致命的な横紋筋融解症を生じさせた、という報告があり、この商品が市場から回収された。 2004 :英国保健当局がシンバスタチンの店頭販売を承認。これに対し米国では、スタチ ン薬の店頭販売の要請は受け入れられなかった。 2009 :FDA がリバロ(ピタバスタチン)を承認したことで、利用できるスタチン薬は 7 種類になった。世界で最も売れている薬がリピトール(アトルバスタチン)である。2010 :心臓発作による年間の死亡率は1980 年から半減した。「米国医師会雑誌(American Journal of Preventive Medicine)」に掲載されたある研究によれば、この低下の6分の1 はスタチン薬の投与によるもので、また喫煙率の低下、食生活の改善、血圧降下剤の使用も、重要な要因となっている。



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